生身の暴力論【久田将義(著)】レビュー、感想。 ウィル・スミスの事件で考えたこと | 双六日録

【ブックレビュー】生身の暴力論(久田将義氏著)暴力の是非ではなく、たしかに「在る」ということ

ブックレビュー
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皆さんこんにちは。双六問屋です。
見に来てくださりありがとうございます。

アカデミー賞授賞式で、俳優ウィル・スミスが、コメディアンのクリス・ロックを平手打ちした件が大きなニュースになっています。

ウィル・スミス氏、アカデミー賞授賞式でプレゼンターを平手打ち 生放送中に放送禁止語も

このニュースを受けてネット上では
妻の名誉のために立ち上がったウィル・スミス偉い!この暴力は仕方ないでしょう派
妻を侮辱されたのはそりゃ嫌だろうけど、暴力は絶対ダメ!!派

の大きく2つに分かれて様々な論争が繰り広げられています。

私は、このニュースを見て、めちゃくちゃモヤモヤしました。
暴力がOKかNGかって言われたら、そりゃNGなんだけど、じゃあ黙って聞き流すべきなのか?
手を上げたウィル・スミスばっかり話題になっているけど、そもそも言った方が悪いよね?
この事があったせいでせっかくのアカデミー受賞も台無しにされて・・・・
いや、でも暴力は悪い!悪いけど・・・
と、いろんな考えが頭の中をぐるぐる回りました。

暴力について考えたくて、今回手にとった本がこちらです。

著:久田将義
¥357 (2024/12/04 01:47時点 | Amazon調べ)

この本を読んで、気持ちがだいぶ整理されたし、モヤモヤした原因がわかりました。
読んでよかった。
というわけで、レビューを書いていきます。

※暴力を推奨するものではありません。

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著者 久田将義さんについて

著者の久田将義さんは編集者で、現在はニュースサイト「TABLO」の編集長です。
特に「アウトロー系」「裏社会」に精通されていて、「トラブルなう」「かわいげ」は人生を切りひらく最強の武器になる」などご自身でも様々な書籍を出されています。

また、ニコニコ生放送のチャンネルやYouTubeなどの動画配信サイト、トークイベントにも出演されています。

プロインタビュアーの吉田豪さんと一緒に放送している、時事ネタについて語るネット番組「居酒屋タックルズ」や「噂のワイドショー」も人気です。この2つの番組は、無料部分と有料部分に分かれており、無料部分はYouTubeで見ることができます。
有料部分は、月額500円の会員になれば視聴することができます。
1回500円ではなく、月額です。内容からするととても安い。
(詳細は、動画の無料部分で紹介されていますのでぜひご覧ください)
私も会員なのですが、本当に有料でしか聞けない内容ばっかりなのでおすすめです。
有料放送部分は公開禁止なので内容は紹介できませんが、毎回本当に面白いのでおすすめです。

久田将義さん Twitterはこちら
ニュースサイト TABLOはこちら
居酒屋タックルズ・噂のワイドショーの無料部分が見られるYouTubeチャンネルはこちら

生身の暴力論 内容

この本では、裏社会に詳しい久田さんの実体験、取材、話題になったニュースなどから色んな暴力を取り上げています。
ヤクザ、暴力団、暴走族、ヤンキー、AKB襲撃事件、ネット配信者、DV、島田紳助氏、痴漢・・・。
肉体的なものだけではなく、言葉や存在の暴力などその内容は多岐にわたります。

もしトラブルに巻き込まれ時にはどうすればいいかの対処法や裁判についても書いてあり興味深かったです。特に、女性から男性に対してのDVについてはふれられる機会が少ないので貴重だと思います。(ちなみに先日の噂のワイドショーで久田さんが裁判について語っていたこともすごく勉強にまりました。無料で見られます。この動画の25分あたりから。)

この本は、暴力を称賛してはいませんし、久田さん自身の喧嘩武勇伝が書かれているわけではありません。私がこの本で好きなのは、久田さんが「強さは正義」としていないところです。

久田さんの目で見たもの、経験、感情が、失敗も含めありありと書かれています。
特に、久田さん自身が痴漢被害に遭われた時の感想、「痴漢は嫌悪よりも恐怖が先立つ」というのは本当にそうだなと思いました。

暴力行為の頂点とも言える、殺人犯へインタビューを行った時の様子も収録されています。

第四章「圧倒的暴力にどう対処するか」、 圧倒的暴力を持つ人ってどんな人なんだろうと思ったら、なんと正体は会社の上司!この上司の「犬の話」が怖い。無意識に話しているからなおさら。

「暴力」というものを最も表しているのは、「はじめに」にあるこの文章でしょう。
以下、引用します。

言論の自由を軽く考え、人を傷つけたりするような言葉を発したとしよう。それは相手が「手を出してこないだろう」という憶測での言動だ。ところが「それがどうした。罪に問われるなど全然かまわない」という人間もこの世の中には存在する。想像力を働かせて言葉は吐くべきだ。
極論を言ってみる。

言論の自由とは何を言っても構わない。
その代わりに何を言われも構わない。

そしてその延長線上に「何をされるかわからない」が在るかもしれない。そういう危機感を持つべきだ。「何をされるか分からない」の内容とは具体的には暴力を指す。

久田将義 生身の暴力論

他にも、「男の顔は履歴書である」こと、久田さんが取材のために怪しいキャッチについていくところなど読みどころがたくさん。

とにかくこの本の中では、あらゆる暴力が紹介されていきます。
暴力を推奨しているのではありません。
暴力がどれだけ身近な生活に「在る」のかを教えてくれるのです。
人は簡単に、暴力の加害者にも被害者にもなり得る。
言動によって、いかにたやすく他人の加虐性をひきだせるかということもこの本を読むとよくわかります。

たしかに一般人からすると、ヤクザ同士の抗争は現実として捉えづらいかもしれません。
しかし、ボッタクリ居酒屋でのトラブル、いえ、もっと身近なタクシー運転手の暴行事件ならどうでしょうか?

久田さんは運転手にはまず必ず敬語を使うそうです。しかし、運転手の中にはかなり乱暴な言葉遣いで返す人も多いですよね。

久田さん「今日は寒いですねえ」
運転手「ああ、寒いねえ。たまらねえよ。」

この場合、久田さんは「おお、そうだよな、たまんねえよなあ」と返す。そうすると、運転手が「あ、やばいやつかもしれない」と感じ、敬語に変わるのだそう。

暴力と、想像力の大切さがよくわかるエピソードでした。
なぜ、今乗ってきたお客さんが「乱暴な言葉遣いをきいても怒らない」と思ったのでしょうか?
普通の会社員に見えるから、多少なめた口をきいてもなにも言わないと思ったのでしょうか?

想像力がない人って、相手をあなどりますよね。その一瞬先に、暴力が在ると想像できない。
うかつに、相手の導火線に火をつけてしまう。

別の章に出てくるヤクザは、「もし煽り運転されてトラブルになったらどうしますか?」と質問した久田さんに「そういう時は僕は一発殴られますよ」と答え、続いてとんでもない復讐方法をさらっと言ってのけます。
これも煽り運転する人が、まさか相手がヤクザだなんて思わなかったことから起きたことでしょう。

相手を怒らせるのはまだいいのかもしれません。相手を死に至らしめるものもあります。
ネットでの「誹謗中傷」という暴力です。この本では、誹謗中傷以外にも様々なネット上の暴力を、「暴力新時代」として紹介しています。

誹謗中傷で逮捕された人の多くは「そんなつもりではなかった」と言いますよね。これもまた想像力の欠如です。

この本では、暴力についてだけではなく、優しさと想像力が大切であることも教えてくれます。

私は、相手をあなどる人って、想像力もないし、人生経験もないんだなと思います。
このことについて、私が「論破について」書いた記事がこちらです。読んでいただけると嬉しいです。

※暴力を推奨するものではありません。

論破とか煽りって、結局は「うるせえ黙れ」で終わりなんですよ。極端な話、喧嘩売ってるって取られて暴力ふるわれたら終わり。(私は暴力反対です。) 暴力が出てこないって信じ切ってるところが甘いなと思います。
特に海外では、人前で恥をかかせることってかなりタブーなので絶対やらないほうがいいです。
相手に対して失礼って自覚した上で論破するのなら、報復も覚悟してほしい。
でも絶対覚悟してないよね。それがダサい。
私が論破を一番嫌いな理由、それは「ダサいから」です

文学フリマ東京に初参加。「SIDE-B」を読みながら、論破がなぜいけないのか考えたり、ものまねに思いを馳せたりしました。

今回「生身の暴力論」を読んでよかったこと、それは、日常生活のありとあらゆるところに暴力は潜んでいると改めて教えてくれたことです。

生身の暴力論 感想 今回のウィル・スミスとクリス・ロックの件で、私がモヤモヤしていた原因がわかりました

今回のアカデミー賞の件、私の中で何がモヤモヤしていたか、この本を読んで気が付きました。
それは「まるで暴力が、絶対起きない遠い次元のように扱われていたから」です。

「あの場ではうまいジョークで切り返すべきだった」という意見もありますが、私はそうは思いません。むしろ、あの場所だから平手打ち程度で済んだのではないかと私は考えます。

なんだかみんなきれいごとばかり言っているように見えたのがモヤモヤしてたみたいです。私の場合は。

何度も繰り返しますが、私は暴力を推奨しているわけではありません。
ただ忘れてはいけないのは、暴力は確実に「在る」ことです。身近な生活にも。
いい、悪い、ではなく、在る。
今回、「生身の暴力論」を読んで、それを痛感しました。
自分もいつでも、誰かの暴力の引き金をひけること、自分自身も暴力をふるう可能性があることを私は忘れたくありません。
あと、夜の歌舞伎町には近寄らないようにしたいです。怖い!

私の友人で、職業柄かなり体を鍛えている男性がいます。
「どんなに腹が立っても女には手をあげない、大人になってからは男とも殴り合いの喧嘩は絶対にしないし巻き込まれないように気をつける」と話していたので、「なんで?」と聞いたところ、超シンプルな回答が返ってきました。
「俺が殴ったら、相手が死ぬから。」
本当に強い人って優しいのかもしれませんね。

今回は、忘れたくないと感じた久田さんの言葉で締めくくりたいと思います。
覚悟がない言葉を吐く人はいつか自分の言葉に復讐される

ここまで読んでくださりありがとうございました。双六問屋でした。

著:久田将義
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双六の蛇足
これは話がずれちゃうと思うんですけどどうしても書きたいので書きます。
「女性が夜でも自由に出かけられる社会をめざそう」という動きはとてもいいと思うし、そうなったら素晴らしいと思います。本当に。
ただ、私、それと同じくらい「夜出かけるのは、男でも女でも危ないよ。」っていうのは自分の周りには伝えていきたい。
これは、男女の対立を煽るわけではなくて、犯罪や暴力がなくなることって絶対にないから。
今ある暴力に目を瞑りたくないので。
以上、本当に終わりです。ありがとうございました!

著:久田 将義
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